君 花

第10章/その手につかみとれるもの
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 蓮に伝えたいことがあります。
 これから、会いにいきます。


蓮からの返事を待たずに送ったPM。
突然のPMに、蓮は驚いているだろうな、と六花は思った。

でも、
今……、蓮と偶然に会えた今日の日に言わなければ。

六花は携帯を握りしめて、自分の決意を確かめるように小さくうなずいた。


「これから、行くの?」

ベッドに腰をおろしたままの奈津美が、びっくりしたような顔で六花を見上げていた。

「――うん。今、言わないと、私、前に進めない」

ベッドの上に置かれた奈津美の携帯を、六花は悲しそうな目で見下ろす。

「あんなメールが流れたのも、私が蓮への気持ちを伝えられずにいたから……。いつまでも足元がぐらぐらのままじゃ、何も解決出来ないと思うんだ」


六花が話し終えると、奈津美は立ち上がって六花の目の前に立ち、ニッと笑ってみせた。

「いってらっしゃい。――でも、もう時間も遅いから早く帰ってくるんだぞ」

そう言って、六花のオデコを軽く人差し指で突く。

「うん」

奈津美につられて、六花も笑顔になる。

「あのメール……ちょっと気になることがあるから、六花が出かけてる間、色々調べておくわ」

「気になること?」

奈津美は六花の肩をつかみ、くるっと体の向きを変え背中を押した。

「だーいじょうぶ。メールのことは私にまかせてっ」

「――うん。ちゃんと、気持ち伝えてくる」

肩越しに振り返って六花はそう言うと、玄関へ向って歩き出した。


蓮の住んでいる所は、携帯に入れてもらったデータで大体の位置はわかっている。

蓮に告白して、結果がどう出るのかはわからない。

でも、

ちゃんと気持ちを伝えて、蓮の返事を聞いて、しっかり前に進んで行こう。


六花は手にした携帯を握りしめ直すと、玄関のドアを開け、暗くなった街へと飛び出していった。




駅に向かって走る六花とすれ違うように、快速電車が光の帯になって流れていく。

車輪が線路をきしませる音と一緒に、六花の脳裏には今日、蓮と出逢ってからのことが次々に浮かんでいた。


六花が会いたがっているということを、感じ取っていた蓮。

会おうと思えばすぐにでも会えたのに、それを『偶然』に任せていた蓮。

それは、暗に六花の蓮への気持ちを拒否するものなのかもしれない。


ずっと思い続けていたものが、あと数分後に儚く消えてしまっても、

自分は蓮への想いを伝えなければいけない、と六花は何度も心の中で繰り返していた。


蓮を慕う気持ちと、春人から愛される立場と、

――すべては、どちらをも失わないようにしていた自分が招いた結果。




2−4の橘 六花は
彼氏がいるのにエンコーしているサイテーな女


不意に送られてきた中傷メールの本文が蘇ってきて、六花は線路の向こう側に渡ろうとして入った踏切の途中で立ち止まってしまった。


――私は

……もしかしたら、また逃げ道を作っている……?


今日の蓮の様子で自分の想いが成就しそうにないとわかって、春人とわだかまりなく付き合っていくためにけじめをつけようとしているだけなんじゃ……?


そう思うと、蓮の元へと向かう足が動かなくなってしまう。

今までも、自分が満たされるために春人の気持ちを欺いていた。

自分の心の欠けた部分を、春人に抱きしめられることで埋めていた。



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