君 花

第2章/六花
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電車を降り、駅のすぐ近くにあるマックに入ってココアを注文する。

日曜の夕方近い時間のマックはそれほど混んでもいなくて、二階のお気に入りの窓際の席に座ることが出来た。

カップを両手で包み込み、窓から道行く人をぼんやりと眺める。

男の車の窓から見ていた景色は、あんなに無機質なものに思えたのに、見慣れた町の様子やざわめきにはなぜか心が安らいでいくような気がした。

手のひらから伝わるココアの温もりが、私を普通の女子高生に戻していっているのかもしれない。

ココアを一口飲んでから、私はバッグの中から電源を切った携帯を取り出す。

さっき彼に携帯持ってないなんて言ったのは、もちろん嘘。

イマドキの女子高生で携帯持ってないなんて、バレバレの嘘にしかならないもんね。


電源を入れて新着メールの問い合わせをすると、数件のメールが携帯の中に飛び込んでくる。

友達からの他愛のないメールに返事を書きながら、ふと自分がさっきまでしていたことを思い出した私。


──初めてだったんだけどな。


改めてそう思うと、何だか白けたような笑いが口元に浮かんでしまう。


少女マンガに出てくるような、キラキラした夢のような時間を過ごしたわけじゃないし。

思い出すのは、

ラブホの部屋の匂い。

ベッドのきしむ音。

イク時の男の声。


部屋に入ってから出るまでに男がどんなことを私にしたのか、

シャワーで濡れた髪がちゃんと乾ききるまでの内は、冷静に思い出すことが出来るに違いない。

まるで教科書のページを流し読みするように。

頭に入れているようで、全然覚えようともしていない非生産的な行動。


メールの返信を一通り書き終えてから、ココアをもう一口。

ココアが随分と冷めてしまっていたことに気付いた私は、そのまま一気にそれを飲み干してしまう。

そしてバッグの中からスケジュール帳を取り出し、今月の月刊予定表のページを開いた。

片手にボールペン、
片手でページを押さえて、

私の視線は、今日の日付の一マスに落とされている。


少し離れた席の他校の高校生のカップルが人目もはばからず、大きな声でいちゃつくのが耳に入ってきた。


唇に残っていた冷めたココアのしょっぱさが、今の私の気持ちみたい。

さっきまでの出来事を断ち切るように、私は今日の日付の箇所にめいっぱい大きく×印をつけた。


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