1/9ページ目 「……え?」 それまで軽快に動いていた六花の指が、キーボードの上で凍り付いたように動かなくなった。 そんな六花の驚きなど無関係に、モニターの中に表示されるチャットルームのログは滝のようぬ流れていく。 紗羅: 来週の週末に東京に行くことになったの♪蓮とオフ会しよっかなぁ(〃∇〃)♪ 紗羅のこのログが次々と打ち出される部屋の常連のログに押し上げられていくのを、六花はまばたきするのも忘れて見つめていた。 『駅から徒歩5分』のユーザールームの常連にしてみれば、チャット部屋で夫婦と言われている蓮と紗羅が会うことがどういうことだか安易に想像出来るのだろう。 ――とうとう遠距離恋愛の成就ですかー(寿) ――日時、決まったら教えて〜。偵察にいくじょw ――愛する旦那に会えることになった今の心境をどうぞー(笑) 矢継ぎ早に出てくる冷やかしログに、まんざらでもなさ気に紗羅は余裕たっぷりにレスを返しているのを、六花は胸が押し潰されるような思いで見つめるしかできなかった。 蓮は何て答えるんだろう? 六花は、ずっと画面の中に蓮のログが現れるのを待っていた。 キーボードを叩く音がしなくなった部屋に、昼頃から降り始めた雨の音が広がり始める。 強くなっていく雨音が、まるで今の自分の心を現しているようで、六花は泣き出しそうになってしまっていた。 泣きそうになっている顔を見られたら大変、と六花は顔を上げて口元を右手の甲でぐっと押さえる。 カメラを持っている部屋のユーザーはカメラをオンにしてチャットをしていた。 六花も部屋に入ってからずっとカメラはつけていたので、自分の様子は常連たちに見られている。 何気ない振りでチャットを続けようとしても、蓮の反応が気になって六花の指は思うように動かなかった。 いつもと違う場所にいるから、今日は箱は無理。 と、蓮はカメラはつけてはいなかったがチャット部屋には入室している。 現に、六花の映像を見ているユーザーを表示する所には蓮のIDがあった。 紗羅が上京する、と発言してからの蓮のログは一言も画面上に現れていない。 六花はカメラに映らないように、机の上から携帯を取ると膝の上でメールを打ち始めた。 紗羅さんと、会うの? そう一言書くのが精一杯だった。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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