君 花

第8章/偶然⇔必然
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「はい、これで7回めー」

思いがけないぶっきらぼうな口調の奈津美の声に、六花は驚いたように顔をあげる。

夏休みも半分を過ぎた頃の日曜の午後、
六花は、久し振りに部活が休みだから遊びに行こうという奈津美に半ば強引に誘われて街に出ていた。

それほど日差しも強くなく心地良い風さえ吹いている今日は、オープンカフェで冷たい飲み物を楽しむにはもってこいのような日だった。

それなのに、
六花の向かい側に座った奈津美は、唇を尖らせテーブルに頬杖をついて六花を六花を見ている。

「7回……め?」

奈津美の様子に、ちょっとたじろぎながらも六花はそう訊ねてみた。

「そ・れ」

頬杖ついていた片方の手を外し、奈津美は六花の手元を指さす。

「これ?」

奈津美に言われて初めて、六花は無意識のうちに左手につけているブレスレットの上に右手を添えている自分に気がついた。


「そー、そ・れ。ここのカフェに入ってまだ5分も経ってないってーのに、六花がそのブレスを見てニヤけていた回数」

そう言った後に、もう一度両手で頬杖つきなおした奈津美はそれまでとはうって変わったようにニヤニヤしながら六花を眺めている。

「ニ……ニヤけてなんか、ないもんっ」

慌てて否定するようにそういって、奈津美の視界からブレスレットを隠すように六花は両手を膝の上に置いた。

「いーなぁ、春人クン。夏休みのほとんど、沖縄なんて」

「そーだね」

奈津美の言葉に、六花はまたブレスレットに視線を落としてしまう。


夏休みに入ってすぐに、急に春人から明日から一週間位沖縄に行ってくると言われ、驚いた日のことを六花は思い出していた。

「俺の親父、沖縄に実家があってさ。高校ん時の同窓会があるってーから、俺も便乗してついてくことになった」

夏休みは普段より一緒にいられる時間が出来ると思って心待ちにしていた六花に突然の春人の言葉はショックではあったけれど、

沖縄の青い海で思い切りサーフィンが出来るのを喜んでいる春人に、そんな自分の気持ちを言っちゃいけないと出かかった言葉を飲み込む六花だった。


「もっと早く予定決まってれば六花も連れていけたのになー」

「男のコと一週間も旅行なんて、お母さんが絶対ダメって言うよー」

残念そうに言う春人に、六花は笑ってそう答える。


「じゃあ、これ……」

そう言って春人は左手につけていたダークブラウンのブレスレットを外し始めた。

「沖縄行ってる間、俺の代わり」

網レザーのブレスレットを、春人は六花の細い左手首に回し、S字のシルバーの金具で繋ぎとめる。

「俺がいつもつけてるやつ。離れてても、いつも傍にいるから」

ブレスレットをつけ終わった春人は、顔を上げ六花にキスをする。

「ハルがいない間、ずっとつけてる」

唇が少し離れた後、額を合わせてきた春人が小さく笑った。

「一週間分、キスしてかなきゃだな」

「――7回?」

ちょっとだけ首を傾げてそういう六花に、春人は笑って。

「足りねーって」



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